奥多摩:栗の花咲く尾根

2016.Jul.6


真夏の日差しを避けて、涼しい林内へ。立ち枯れは結構あるので、順番に見回っていく。

まずは、尾根筋にある樹種不明の広葉樹立ち枯れ。花掬いの前に見た時は寄生蜂ばかりだったが、今度はどうだろうか。

樹皮の陰に隠れるようにして産卵中の虫がいる。

久しぶりにみるネキダリスの姿。もう少し近寄って撮影しようとした瞬間、ポロリと落下。


オオホソコバネカミキリ♀

夏のブナ帯に来たことを実感するカミキリムシのひとつ。久しぶりのメスなのでとても大きく見える。他にもいないか探してみたが、この1匹だけだったので移動する。

次はこのブナの樹洞。以前はムツモンミツギリゾウムシがいたのだが、今日はどうだろう。LEDライトで内部を照らしながら探す。


ムツモンミツギリゾウムシ

今年も見つけることができた。洞虫の要素を備えているのかもしれない。

続いて、日向にある樹種不明の広葉樹立ち枯れ。以前からあったが、今年はキノコが生えている。近寄って見ると、青い翅がキラリと光った。


ルリコガシラハネカクシ

さきほどのルリハナカミキリと同じく、美しい瑠璃色の上翅。ハネカクシはほとんど採らないのだが、こういう綺麗な種には手が伸びる。

続いて、またも樹種不明の広葉樹立ち枯れ。数年前から存在しており、特徴的な樹形をしているのでよく覚えている。前回はカンボウトラカミキリが次々と飛来していたが、今日はどうだろうか。


カンボウトラカミキリ

クリの花では見られなかったが、立ち枯れには来ていた。この個体以外にも複数個体が歩き回っている。


ツマグロハナカミキリ

上翅基部に小さな黄色紋があるタイプ。


オオマダラコクヌスト

広葉樹立ち枯れで普通に見られるが、久しぶりに見ると良い虫だ。

このあたりで昼食にするため、休憩。水分もしっかり補給。今日は夕方まで粘るつもりなので、少しだけ標高を上げる。

歩き始めると、前方に1匹のチョウが飛んでいるのが眼に入った。シジミチョウのようだが、その大きさと斑紋に眼を疑う。こんなところにいるとは信じられないが、とにかく採らねば。叩き網と叩き棒を放り投げ、狙いを定めて長竿を振りぬく。


ウラゴマダラシジミ

里山の蝶だと思っていたが、標高1300mを超えた山奥にもいるとは。ミヤマイボタは見たことがあるので、それを食べているのだろうか。神奈川県の里山で採集して以来、実に15年ぶり。

途中、クリの花に立ち寄る。日当たりが悪くなっているが、午前中とは違うカミキリが来ているかもしれない。


ヒゲジロハナカミキリ

午前中は見かけなかった。ノリウツギではよく見かける。


オオヒメハナカミキリ

日当たりが悪いところにピドニアがやってくるのはいつも通り。

カミキリムシはこの2匹のみだったので、先へ進む。

途中、以前ジュウニキボシカミキリを採ったハリギリに立ち寄り、スウィーピング。ナカネアメイロも期待したが、両方とも網に入らなかった。近くのリョウブの花にナカネアメイロが来ていたことがあるので、発生木が近くに絶対あるはず。そう思って、近くをもう一度探してみる。

すると、もっと太いハリギリを発見。さっそく、幹をじっと見てみる。

飴色の虫が歩いているのが目に留まった。光量が足りない上に、意外と歩くのが速い。撮影は無理と判断し、手を伸ばす。


ナカネアメイロカミキリ

今まで見てきた個体よりも一回り大きい。

さらに、上の方を見ていくと交尾中のペアもいた。

この木は発生木に違いない。樹勢は心配ないようなので、しばらくは安泰のはず。寄り道はこのくらいにして、立ち枯れエリアを目指して出発する。

標高を上げて、ダケカンバ・ミズナラ林に到着。かつてはスズタケにびっしり覆われていたらしいが、約10年前に初めて訪れた時にはすでにこの状態だった。そして、ダケカンバの勢力が年々弱くなり、次々と立ち枯れている。日当たりが良くなって乾燥するからか、他の樹種も枯れ始めている。変わって、林床には灌木が急激に勢力を拡大している。増えすぎたニホンジカの影響なのか、気温上昇の影響か、その両方か。いずれにせよ、植生遷移が急速に進んでいるのは確かなようだ。

とりあえず、適度に朽ちたものを選びながら、順番に見回っていく。

まずは、このダケカンバ立ち枯れ。樹皮はしっかり残っているが、程よく朽ちている感じがする。幹をじっと見ていると、赤い虫が何匹も歩いている。


セアカナガクチキ

鮮やかな赤色をしたナガクチキ。このあたりではわりとよく見る。

腹端を持ち上げて静止している個体もいた。フェロモンを出しているのかもしれない。


オオキノコムシ

剥がれかかった樹皮をそっと浮かすとポロリと落ちてきた。お馴染みのピーナッツバターの香りが漂う。

次は、この樹種不明の広葉樹立ち枯れ。樹皮は完全に脱落しているが、虫は来そうな気配。


カンボウトラカミキリ

ここでも見ることができた。この個体はまだ新鮮で斑紋が鮮明。


ハネビロハナカミキリ

一見するとツマグロハナカミキリに似ているが、一度現物を見れば体格差は歴然としている。

続いて、この立ち枯れ。相変わらず樹種不明だが、朽ち方が大事なのであまり気にしない。


ヒメアカハナカミキリ

花掬い以外で見るのは初めてかもしれない。

ある程度見回った後、もう一度最初のダケカンバ立ち枯れを見る。


トゲムネツツナガクチキ

もう一種のナガクチキがいた。これも腹端を上げて静止しており、おそらくフェロモン放出中。

日が傾いてきたので、立ち枯れを見ながらゆっくりと下山。

クリの花にもう一度だけ立ち寄る。時間帯が遅くなると、カミキリムシの顔ぶれも変わるはずだ。


ミヤマホソハナカミキリ

曇天の時によく飛来する印象がある。


ニョウホウホソハナカミキリ
ニンフホソハナカミキリ

こちらも日陰の花によく来る種。飛んでいる時は蚊のように見える。


ヤマトキモンハナカミキリ

この時間帯は花までやってくるようだ。


フトエリマキヒメハナカミキリ♂

もっと標高が高いところでは普通に見られるが、ここでは通算2個体目。

この後も立ち枯れや倒木を見ながらゆっくり下山していくが、目新しい虫は見つからないこともあってだんだん集中力が切れてくる。

だいぶ下ってきたところで、ミズナラの新しい倒木にたどり着く。根元から伸びた細枝を見ると、カミキリムシが止まっているのが見えた。腹側から見るとエグリトラカミキリのように見えたので、無造作に叩き網に落として拾い上げる。


ヒゲナガシラホシカミキリ♀

上翅の斑紋を見て眼を疑った。ここに来て、本日2種目の奥多摩自己初採集。初めからわかっていたら生態写真を撮れたかもしれないが、緊張して逃げられてしまうこともあるのでとりあえず確保できて良かった。

過去の記録はあるので気にしてはいたが、なかなか出会えずにいた本種。この時間帯は帰途についていることが多かったので、遭遇する機会がなかったのかも。まだ触角の先端が丸まっているので、羽化脱出して時間が経っていないのだろう。後食用のミズナラの葉とともに大事に持ち帰る。当然ながら、ミズナラ倒木の本体をすみずみまで見たが追加はなし。再び下山を開始する。

途中、もう1つのトラップを確認。


ヒメコブスジコガネ

またも同じ種だった。次回に期待してトラップはそのまま置いておく。

舗装道路に戻って来たのは17時過ぎ。日陰は涼しくなってきている。

いつもより長時間の滞在で、たくさんの虫に出会うことができた。奥多摩自己初採集のカミキリムシも一気に2種となり、満足しながら帰途についた。

帰りはマダニ対策も兼ねて久しぶりに温泉へ。


ルリツヤハダコメツキ

温泉施設のそばに落ちていた。カミキリ、ハネカクシ、コメツキ、今日は瑠璃色の綺麗な虫によく出会う日だ。

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