2018.July.10
異常な早さで季節が進み、7月を待たずに梅雨明けした関東地方。昆虫の発生も例年になく前倒しで進み、これまでの経験が通用しない。平地ではあまりの暑さに早くも夏枯れの心配までされるほどだが、山地の季節はそこまで劇的には進んでいない模様。
前回の探索から2ヶ月が経ち、そろそろ今年2回目の探索へ。前回密かに仕掛けた羽毛トラップの回収と、尾根筋の花掬いで、果たしてどんな虫に出会うことができるだろうか。
23時前、約2ヶ月ぶりの奥多摩駅。
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いつものように、いつもの場所へ。
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蛾像収集を始めるが、今夜は蛾の数がとても少ない。個体数だけみれば、まるで真冬のような状態。
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ナカキエダシャク
ピントが合っているのかいないのか判断を狂わせる見事な模様。
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ミカドガガンボ
採集しようとしたら大きな翅音とともに飛び去ってしまった。
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翌朝5時に起床。今日も晴れそうだ。始発のバスに乗り、登山口を目指す。
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登山口からしばらくは植林の中を登っていく。
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その後、原生林の中を黙々と歩く。
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午前8時、ようやく道が尾根の上に出る。このあたりから網を用意し、採集開始。
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まずは、このギャップから。
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周縁部にある枯枝に注目。
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クモノスモンサビカミキリ
本日初めて見るカミキリムシ。あまり多い種ではないので見つけると嬉しい。
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日当たりが良い場所にはリョウブが生えている。蕾がだいぶ膨らんできており、あと1週間ほどで開花するだろう。
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その隣には散りかけのクリの花。長竿を伸ばして掬ってみるが、虫がほとんど入らない。集虫力の高い花が途切れる花境期に来てしまったのか...。
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他に掬う場所はないか周囲を見渡していると、林縁に緑の閃光が飛ぶ。しばらくして止まったところで狙いを定めて、網を振り抜く。
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オオミドリシジミ
夏に現れる宝石のひとつ、ゼフィルスの仲間。だいぶ飛び古しているが、その輝きはまだ残っている。関東では平地の雑木林で見るイメージがあるが、こんな原生林の中でも生息している個体群がいる。
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しばらく同じ場所で待つと2匹目が飛んできたのでネットイン。尾状突起が欠けているが、さきほどの個体よりずっと新鮮。これで満足したので、先へ進む。
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クリが終わり、リョウブにはまだ早い。残るはノリウツギ。例年この標高なら7月下旬~8月上旬に満開になるが、経験上、開花までの所要日数は高温の影響を受けやすい。今年の天候を考えると、早い株なら咲いているかも。そう思いながら、前回来た時の記憶を頼りにノリウツギを探す。
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そして見つけた、最初のノリウツギの株。
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上の方がかろうじて咲いている。虫も集まってきているのが見えるので、早速長竿を伸ばす。
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ヨツスジハナカミキリ
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チャイロヒメハナカミキリ
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キヌツヤハナカミキリ
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あまり日当たりが良いとはいえないこの株でこの開花状況なら、きっとこの先にあるあの株はもう少し咲いているはず。まだ時間帯は早いので、先へ進む。
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本日2株目のノリウツギ。最も高い花房でも2mほどしかないので、とても掬いやすい。日当たりも良いので1株目よりも開花している花房が多い。虫の数も多いので、長竿を伸ばす。
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ヨツスジハナカミキリとアオハナムグリ
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ミヤマクロハナカミキリ
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オオヒメハナカミキリ
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ニンフホソハナカミキリ
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ヒメトラハナムグリ
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ルリハナカミキリ
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ある程度掬ったところで、他の花を探すためさらに先へ。とにかく、今日の午前中は花掬いをメインにするのだ。
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しかし、遠目から見ても良さそうな樹洞があったので思わず寄り道。
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入口に何かいる。
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ミヤマオオハナムグリ
樹洞で発生するはずなので、今まさに出てきた新成虫かもしれない。
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さらに、樹洞の入口の地面にも、何かいる。
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クロホシクチキムシ
本種も樹洞を住みかとする虫のひとつ。自己2度目の遭遇となる。
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寄り道もそこそこに、再び花探しへ。この尾根は風当たりが強いのか、ギャップが結構多い。ギャップには真夏の太陽光が地面まで降り注ぐので、遠目からでもわかりやすい。
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ここは規模が大きいギャップで、ノリウツギの株も大きい。斜面を下り、足場を確保してから長竿を伸ばす。
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アオアシナガハナムグリ
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シロトラカミキリ
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株の規模は大きいが、虫の数は少ない。時間はすでに10時、かなり暑いので虫が日陰に逃げてしまったか。
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そろそろ花掬いは終わりにして、林内を探索することにしよう。
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まず、タンナサワフタギの立ち枯れ。この時期なら、根元にあれがいるはず。
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トガリバホソコバネカミキリ
産卵中の♀と、それに乗る♂。条件が合う立ち枯れさえあれば、奥多摩では割と簡単に出会える。
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続いて、この樹洞。前回、密かに羽毛トラップを仕掛けておいた。
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ところが、羽毛は半分ほどの量に減っており、しかもフレークで埋まっている。羽毛を取り出してビーティングネットの上で広げてみたが、何もいない。本日の目的のひとつだったというのに。
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周囲には羽毛の残骸が少々。その中で最も大きいものがこれ。せめて1頭だけでも、いてほしい。
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ひっくり返して、じっくり見る。
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ヒメコブスジコガネ
原生林でトラップをかけると毎回見つかる常連。他の種を期待していたが、また来年以降に持ち越し。
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もう1ヶ所、倒木の下にも羽毛を仕掛けていたのだが、場所を忘れてしまいなかなか見つからない。そちらの方にはきっと狙いの種がいるはずなのだが、トラップが見つからない以上はどうしようもない。
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トラップを探して尾根を戻る途中、林床付近を飛ぶ甲虫をいくつかネットイン。
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ヌバタマハナカミキリ
花にはなかなか来ないので狙って採りにくいハナカミキリのひとつ。
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ムネアカクロアカハネムシ
翅は黒いけど「赤翅虫」。自己初採集。
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だいぶ戻って来たがトラップは見つからない。もう諦めて、倒木や枯木を重点的に探していく。
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こんな倒木をビーティング。
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タテスジゴマフカミキリ
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サルナシの枯蔓。軽い気持ちでスウィーピング。
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ムネモンヤツボシカミキリ
実に14年ぶりの再会となる。
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ギャップに生えるアブラチャンの周囲に、フワフワ飛ぶ虫影を発見。これは、ずっと探していたあのカミキリに違いない。止まったところで下から網で掬う。
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ヒメリンゴカミキリ
奥多摩自己初採集。アブラチャンの葉裏に残る食痕は学生時代から確認していたが、実物を手にするまでこれほど時間を要するとは思ってもいなかった。とりあえず、今日ここに来た甲斐があった。
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気がつくと、空は雲に覆われている。もうすぐ雨が降ってくるだろう。せっかくここまで登ってきたので、下山するのはもったいない。来た道を戻りながらも、良いポイントを探す。
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クリの立ち枯れ。午前中は何もいなかったが、今はどうだろうか。
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ミドリカミキリ
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ヤマトキモンハナカミキリ
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この2種がポツポツと飛んでくる。
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飛来を待つ間、周囲の立ち枯れを覗いて時間を潰す。
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オオホソコバネカミキリ
本日2種目のネキダリス。ヒゲジロホソコバネもそろそろ出てくる時期だが、この天気ではもう厳しいか。
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そうこうしているうちに、大粒の雨が降ってくる。これ以上の探索を諦め、下山することに。
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林内に入ってからは豪雨となる。ビーティングネットを傘代わりにして淡々と下山。
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登山口まで降りてくる頃には、雨も小降りに。荷物をおいて一休みしようとした瞬間、目の前のススキの株の虫影に気づいた。
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<写真にはうまく写っていないが、その正体は一瞬でわかった。動き出す様子はないので、もう少し角度を変えて近寄って見よう。
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今度は全形が写った。もっと近寄って、撮るか採るか。迷った末に、手を伸ばす。
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ニシキキンカメムシ
ようやく出会えた、奥多摩の夢のひとつ。この宝石のような輝きは実物を手にした者にしかわからない。
羽化後間もない脱皮殻まで迫った9年前の5月、その後まったく縁がなかったが、こんなところで雨宿りしているとは。最後の最後で、今日一番の出会いとなった。
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その後、バスで奥多摩駅まで戻り、奥多摩の夢のひとつに出会えた満足感とともに帰途についた。
ニシキキンカメムシのこの素晴らしい輝きは、残念ながら生きている間だけのもの。体から水分が蒸発するとともに、急速に輝きが失われていく。
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展足した次の日には、もうこのとおり。
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不思議なことに頭部と前胸の一部には生時の輝きが残る。標本箱に収まった後でも、この角度で眺めるたびに、この日の出会いが鮮明に思い出されることだろう。