3月25日(木):6日目
楽しい時はあっという間に過ぎ去り、今日が最終日。11時35分発の第2便で、台東空港に戻る。朝8時、バイクに乗って出発して最後の悪あがき。
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移動する時間がもったいないので、近場で目星をつけておいた場所へ。
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黄槿
Hibiscus tiliaceus
南国の海岸沿いにごく普通に生えるオオハマボウ。南西諸島では初夏にこの葉を後食するスジシロカミキリ類を探すのが定番であり、トカラ・奄美、沖縄、先島、それぞれに亜種・別種が分布する。
この島に分布するものは、蘭嶼白條天牛 Glenea versuta という固有種。それを狙って葉裏を覗く。
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葉脈が部分的に黒く変色しており、発生は間違いないようだ。期待を込めて目視で探しつつ長竿で掬いまくるが、まったくかすりもしない。
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粉彩吉丁蟲
Chrysodema lewisii
日本にもいるアヤムネスジタマムシ。代わりにこのタマムシを見つけただけ。
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圓斑硬象鼻蟲
Pachyrhynchus tobafolius
オオハマボウの根元のカラムシ?には、カタゾウムシの姿。この島で見る最後の個体になるのだろうか。
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そう思いながらふと顔を上げた瞬間、林縁の上を優雅に飛ぶ大きな影が目に飛び込んできた。
「キシタアゲハだ!」
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慌ててカメラを構えるが、肉眼でははっきりと捉えられているのに、あまりの興奮と未熟な技術では、視界を切り取ることができない。
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最初の1枚がこれ。ピンボケでブレまくってて、完全にトンボにしか見えないが、後翅の黄色がぼんやりと写っているのがわかるだろうか。
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しばらく林縁を飛び回っていたが、やがて花を見つけたようで急降下。そして、アゲハチョウらしい羽ばたきながらの吸蜜。これは、絶好のシャッターチャンス。マクロ+18倍ズームで、懸命にピントを合わせる。
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薄雲りということもあり、これが限界。
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珠光鳳蝶
Troides magellanus
雰囲気だけは写し取れただろうか・・・。
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もう少し撮りたいところだったが、あえなく飛び去ってしまった・・・。
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再度の飛来を待つのも時間の無駄なので諦める。オオハマボウはもうほぼ全部掬ってしまったので、ちょっと目先を変えてみる。
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野桐
Mallotus japonicus
目についたのは、満開のアカメガシワ。夜のうちに飛来した虫が居残っている可能性があるので、長竿を伸ばす。
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紅螢科的一種
Lycidae
めぼしい虫はこのベニボタルくらい。もっと虫が集まってきていても良さそうなものなのに・・・・。何かあるのかもしれないが、深く考えずに長竿を収納する。
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仕方ないので、さらに目先を変えて周辺を探索。
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蘭嶼超扁條天牛
Bumetopia stolata
上翅の斑紋もしっかり残っている、新鮮な個体。
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杜 松 蜻 虫延
Orthetrum sabina sabina
南西諸島にも分布する、ハラボソトンボ。昨年の真夏の沖縄本島遠征を思い出す。
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同時に、先日見た某虫のポイントを思い出す。すぐ近くなので、急いでバイクを走らせる。
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先日、Toki氏が走行中に目視でその標的を発見した場所。昆研後輩が考案した「ハイエナ採集」を実践。
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黒銹綾天牛
Abryna coenosa
今日は、虫運が非常に良いらしい。
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目的を達成したので、さらに場所を移動する。
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これまで何度となく通っていた道なのだが、実はイヌビワ類(榕属 Ficus sp. )の並木になっていることに気づく。
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バイクを停めて丹念に覗きこむと、虫影があちこちに見える。
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蘭嶼縱條長鬚天牛
Epepeotes ambigenus
どうやら昼間も後食するらしい。見つけるまであれだけ苦労したというのに、日本でのクワカミキリ並みにいることがわかった。
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さらに探索を続けていると・・・・、
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條紋硬象鼻蟲
Pachyrhynchus sonani
夜に一度だけ見たカタゾウムシが見つかる。まだ見ぬ最後の1種 P. yamianus ではなかったが、それでも嬉しい。やはり太陽光の下で見るとその美しさが際立つ。
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近づきすぎて落下したが、どこにいてもその美しさは変わらない。
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数年前までは保育種に指定されておらず、このまま持ち帰ることもできた。でも、このカタゾウムシたちが生息している環境に身を置いて、そこで生きている姿を実際にこの眼で見ることができたのだから、それだけで、もう十分だ。
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そろそろ時間が迫って来たので、宿に戻る。島の様子がいつもと違うことに気づいたが、まだ深刻には考えていなかった。
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お世話になった民宿とも、今日でお別れ。
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黄脚姫天牛
Ceresium flavipes
ヒメカミキリ属の一種で、日本には分布しない。前夜に明かりに誘われて飛来したらしい。これがきっと、最後に見つけたカミキリムシになるのだろう。
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民宿の前には、この島の主食であるタロイモ田がある。海岸ギリギリまで田んぼを作っているところが驚きだ。
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その脇に生えているヒルガオ類の葉で、最後の1種となるであろう虫を発見。
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甘藷龜金花蟲
Cassida circumdata
南西諸島にも分布するタテスジヒメジンガサハムシ。葉の裏側から削り取るように食べるのが特徴。名前の通りサツマイモの葉も食べる。
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すぐ近くには蛹の姿もあった。
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さて、いよいよ出発の時。
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台湾本土とは一味違ったこの島特有の生き物も見られたし、満足だ。
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民宿オーナーのDongさんと娘のLamuranちゃんと記念撮影をして、車で空港へ。もうこの島を訪れることは、もしかしたら一生ないのかもしれないな・・・。
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しかし、到着してみると不穏な空気が漂っていた・・・。空港の敷地内には、あるべきはずの飛行機の姿が見当たらない。恐る恐るカウンターで状況を確認してみると、第1便は台東空港から蘭嶼空港へ到着して再び台東空港へ飛び立ったが、その後に天候が悪化して次の便から欠航が続いているという。むこうから飛行機が来ない以上、島を脱出することは不可能。搭乗予定だった乗客で空港は騒然としている。
なんということだ・・・・。
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Toki氏はDongさんと連絡を取り、島への滞在延長が決定。
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「この時期はよくあること。明日になれば状況が変わるよ。」 民宿の近くに現れた虹を見て、Dongさんの言葉を信じることにした。
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このままでは明日の日本へ帰る航空機には乗れないので、急いで別の便を予約する。
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Toki「クレジットカード、作っておくべきでしょ」
社会生活能力の差を思い知らされた・・・。
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