奥多摩:原生林の灯火

2014.Aug.2-3

石垣島旅行の後は毎日があっという間に過ぎていき、気がつくともう8月。平地の夏はまだまだこれからだが、奥多摩はもう折り返し地点。夏が逃げていく前に、今年もあのノリウツギの前に降り立つことにした。

いつもは一人で山に入るのだが、今回は昆研の先輩H氏と合流する予定。以前から話していた「尾根筋での灯火」がついに実現することになったのだ。一緒に採集するのは2009年の対馬採集行以来2度目となる。

天気がかなり心配な状況ではあるが、ギリギリ持ちこたえると読んで現地入り。果たして、学生時代から通っている2人の前に、どんな虫が姿を現すのだろうか。


8月2日、奥多摩駅から第3便のバスで集落へ。空はよく晴れており、日差しが厳しい。予報では「天気は下り坂で午後から雨の恐れ」だが、まだそんな気配は感じられない。

日陰に入ると涼しい風が吹き抜ける。昨夜は雨が降ったようで、路面はまだ濡れているところがある。

谷の様子(9時20分)。トチノキの実も大きくなってきた。

先輩は第5便のバスで来るそうなので、一足先に尾根筋へ。今からなら花掬いの時間帯に間に合いそうなので、登山道へ急ぐ。

気合を入れて急斜面を登っていくが、夜勤での体力消耗と日頃の鍛錬不足による運動能力低下で、気持ちとは裏腹に脚がなかなか進まない。

10時40分、ようやく尾根筋に出る。すでに花掬いの時間には間に合わないので、目先を変更。

まだ見ぬヒゲジロホソコバネを狙って、ミズナラの立ち枯れを見ながら歩いていく。立ち枯れの本数はそこそこあるのだが、甲虫の姿はほとんどない。

しばらく歩くと、去年のナツツバキ倒木がそのままの姿で現れた。休憩もかねて立ち止まり、表面に空いた穴を中心に見ていく。

すぐに、孔に潜り込もうとしている個体を発見。今年も発生しているようだ。


アカツツホソミツギリゾウムシ

全国的に珍しい種類だが、ナツツバキの倒木が適度に供給されるこの場所では安定して発生できるのかもしれない。

休憩の後、立ち枯れや部分枯れを見ながら歩いていくが何も採れないまま、分岐に到着。ここで、巨大な甲虫が大きな羽音とともに現れた。逆光でよく見えないが、カナブンよりも一回り大きくて黒っぽい。これはおそらくあの虫に違いないと、長竿を伸ばして振りぬく。


オオチャイロハナムグリ♀

久しぶりに見る原生林の虫。飼育に挑戦するため、生かしたまま持ち帰ることにする。

分岐を曲がり、ミズナラ林を進んでいく。木漏れ日は強烈だが、林の中はわりと涼しい。

立ち枯れがあると一周して確認していくが、虫の気配はない。

ブナの根元には精霊の痕跡。外界に出てきたのはここ2,3日のことらしい。

一休みした後、再び尾根道を進んでいく。

樹液が出る木はいくつかあるが、今年はこの木がもっとも湧いている。


アオカナブン

薄暗い時にはまるで自ら光っているような輝きを放つ。例年ならチャイロスズメバチもいるはずだが、今日はその姿はない。

しばらくして、平坦な道に出る。ここからが、この尾根筋でもっとも楽しいエリア。


ミズナラの立ち枯れ

樹冠を突き抜ける大木もいくつか見ていくが、虫の姿がない。天気が崩れていくのを敏感に察知しているのかもしれない。


ミズナラの樹洞

このエリアには樹洞がある大木がかなり多い。ヒゲブトハナカミキリを狙って覗き込むが、そう簡単に見つかるものではない。


ツヤハダクワガタ♂

カミキリムシの代わりにこの個体を発見。樹洞内部にいることもあるようだ。

12時50分、ノリウツギに到着。

花は盛りを過ぎたくらいで、2,3日前がちょうど満開だったようだ。大雪で春の花は開花が遅れたが、夏の花はほとんど影響を受けなかったらしい。

空を見上げると、怪しい雲が成長しつつある。株全体を見回しても、カミキリムシの姿はほとんどない。代わりに、昨年までほとんど見ることがなかったブユが大量に集まってきた。天気が悪くなる前触れなのだろう。

一応、長竿で一通り掬ってみる。網に入ったのは、大量のムラサキナガカメムシ。カミキリムシはチャイロヒメハナ1匹のみであった。

これ以上、新たな虫の飛来は望めないので、荷物を置いて周辺の状況確認へ。

少し歩くと、林内に白い花を発見。


満開となったリョウブ

ノリウツギよりわずかに遅く開花するので、今がちょうど満開。どんな虫が来ているか、試しに掬ってみる。


オオトラフハナムグリ♂

山地でもっともよく見るハナムグリのひとつ。


ヒゲジロハナカミキリ

このエリアではよく見る。

大きな虫を採った後、このエリアでは初めて見る小さなカミキリが入っていることに気づく。


ナカネアメイロカミキリ

9年前に谷筋の外灯に来ていたのを採集して以来、2回目の遭遇。ハリギリ大木を見るたびに探していたものだが、花掬いで得られるとは思わなかった。

花に来ているということは、近くに発生木があるはず。すぐ近くに生えているハリギリへと向かう。


ハリギリ

胸高直径30cmくらいのまだ小さい木。幹回りを一周して眺めてみるが、飴色の虫は歩いていない。葉のスウィーピングでも採集されるので、長竿を目いっぱい伸ばして掬う。


ナカネアメイロカミキリ

狙い通り、追加個体を得る。幼虫は生木の樹皮に穿孔するそうだが、この木はそんなに樹皮が厚いわけではない。意外とこんな木でも発生できるのか、あるいは移動中に一休みしていただけなのか。大木は多いので、いずれ多くの個体が徘徊する御神木を見つけてみたい。

先輩が登ってくるまでまだ少し時間がありそうなので、さらに標高を上げてみる。

7年前、ミズナラの精霊がいたミズナラ大木。その後も何度か見ているが、精霊は姿を現さない。今日も同じ結果だった。

空は完全に雲に覆われ、一時的だが小雨も降る。立ち枯れはたくさんあるが、虫の姿はほとんどない。

唯一の成果は、この立ち枯れ。


ツヤハダクワガタ♂

わりと大きい個体が見つかった。

その後、ノリウツギまで一度戻って水分補給。今度は標高を下げて探索していると、登ってきた先輩が現れた。昨年の学園祭以来の再会となる。時間は16時頃、日没にはまだ時間があるうちに、今回のメインである灯火の設営をすることにしよう。


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